静岡での日本SF大会「DonburaCon L」にあわせて発行されたBAMU、イスカーチェリ、科学魔界40周年記念号「SFファンジン」55号に短編が掲載された、メキシコのセシリア・エウダーベの第2長編。掲載された「頂上(El ascenso)」はSFだったが、この長編は幻想小説で、彼女の本領はこちらの方。<フアン・ガルシア・ポンセ>賞(Premio Nacional de novela corta <Juan García Ponce>)の2006-7年度受賞作。この賞は2000年に設立された賞で、ユカタン州の主催。メキシコ人作家の優れた中編小説に2年ごとに贈られる。
 主人公は、生まれたときカタツムリのように丸まっていた女の子。妹が生まれたときは額に一本、角が生えていた。そして、その母親は視線で人を殺せるバシリスク、父親は狼男、祖父はケルベロス、伯父はバッファローで、叔母は<命名不能>。こういう設定だと、「アダムス・ファミリー」のようなコメディーと思われるかもしれないが、こんな家族に囲まれて何とか逃げ出そうとする女の子の、結構ハードな状況の物語である。とはいえ、表紙イラストのようなおどろおどろしい状況にはなっていないので、ご安心を。このあと、身体の半分が白くて、半分が黒い親戚の話とか、絨緞の毛足の中に隠れてしまうほど小さい親類の話などが詳細に語られる。そのうち、父親は家出をし、母親の会社に就職し、経理の仕事をさせられるが、彼女は一本の大腿骨に変身してしまったり、書類を食べてしまったりするので、ついにやめさせられてからは、職を転々とするようになる。友人と麻薬を経験したり、ほとんどあったこともなかった叔母のところに転がり込んだりしながら、最後は家族の元に帰っていくという物語。
 このようなテーマは、2010年に出版された児童文学「熊父さん(Papa Oso)」にもあらわれ、経済不況で失業した父親が熊に(のように?)なってしまい、幼い女の子と母親と協力して家族を作り直してゆくという、どこかこの作品と通じるところがある話になっている。
 現時点での最新刊は「たぶん来ない旅行者のために(Para viajeros improbables)」(2011/11月)。超短編(hiperbreves、microrelatos)、1ページにも満たない短い掌編の短編集。

「モンスターな人生」
Bestiaria Vida
(Ficticia Editorial, México, 2008)

セシリア・エウダーベ
Cecilia Eudave

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