AEFCFT(スペインF&SF&T協会)出版の年次傑作選である。今年はベルムーデス・カスティージョ、トレス・ケサーダというベテランから新鋭、新人まで、そして、アルゼンチンとキューバ出身作家からも選ばれて、内容的にもバラエティー豊かな全十篇となった。

 アルフレード・アラモ Alfredo Álamo
「天才の秘術」 El embrujo de l virtuoso マルコスが奏でる天才的なバイオリンの音色には、四人の女性との血の思い出があった。ホラーの掌編。

 
ビクトル・M・アンチェル Víctor M. Ánchel 「身体の記憶」La memoria del cuerpo
 ピピピ……と音がする。せっかくの休日の朝なのに、起こされてしまった。普通の朝の風景がだんだんと壊れていき、恐怖に包まれていく様子はスリリングである。LUNATIC 26に訳載。

 
ルイス・アストルフィLuis Astolfi 「罪なき者」 Sólo el inocente
 富豪のアルドは少年期に自分を捨てた父親から遺産をうけついだ。どんなものを遺されたのかわからないままフィレンツェにおもむくアルド。そこで待っていたのは未発表のダ・ヴィンチの絵で、「ユダの接吻」をイエスの背から見たところを描いた絵だった。持ち帰ろうとするアルドを「あなたはきっと後悔する」と止めようとする神父。しかし、強引に持ち帰ったアルドに降りかかったできごとは……。神学的な「赦し」についての物語。

 
ガブリエル・ベルムーデス・カスティージョ Gabriel Bermúdez Castillo「戦争ツアー」 Turismo de guerra
 
スペインSF界の巨匠の一人の新作。サファリなど、動物の狩猟が禁じられた世界で、ちょっとした冒険に満ちた旅行に出たい人たちは、戦場に行って銃を撃ってくるツアーに参加していた。痛烈な皮肉がいたるところにちりばめられた小編。

 
アレハンドロ・カルネイロ Alejandro Carneiro「どこかの浴室で」 En una bañera cualquiera 天文学者キクは、この宇宙の果てに「壁」を発見し、神が創った浴室のようなものの中に世界が存在するという仮説を立てた。いきなり無茶な設定から始まるが、読み進めていくうちに、主人公はバチルス菌であることがわかってくる。宇宙船を仕立ててこの浴室のなかを探査したり、国防軍との軋轢があったり、異種であるアメーバと出会ったりと、意外なほどオーソドックスなSFになっている。

 サンティアゴ・エクシメノ Santiago Eximeno「知的所有権」 Propiedad intelectual
 エクシメノはこれで「夢の紡ぎ手」四年連続収録を果たした。ぼくと出会う人は、初対面でも自分のことを包み隠さず話してくれる。ぼくはそれを基にして短編を書く作家だが、一度だけ、出版はされなかったが、長篇を書いたことがある。その基になったのは……。ラストに向けてショッキングな場面の連続。

 
カルロス・ガルディーニ Carlos Gardini「ワルキューレのキス」 El beso de la valquiria
ベテランのアルゼンチンSF作家。本書の表紙イラストは、この作品を基にしたメルセデス・ロドリーゴ(www.toposolitario.com/heliopolis/)のイラスト。イギリスとアルゼンチンが戦ったフォークランド紛争での証言を集めていた記者ジェイムズ・パーカーは、アルゼンチンの退役軍人を訪ねた。彼はあの戦役中にワルキューレと会い、キスをしたというのだ。ファンタジックな要素が少なく、一般的な戦記物としても読める一篇。

 
セルヒオ・ガウト・ヴェル・ハルトマン Sergio Gaut vel Hartman「我内遭難」 Náufrago de sí mismo
アルゼンチンSF界の立役者で現在でも多くの雑誌やファンジンに作品を発表し、メーリングリスト「CCF(SFコミュニティ)「AXXON翻訳者チーム」などで中心的メンバーとして活躍中。 新しい身体を得て、新しい人生を始めた私だが、今までの身体がどうなったのか気になっていた。病院のなかで迷った私はいつの間にか使用済みの身体の保管庫にいた。そこには以前の私がいて、私に話しかけてきた……。

 
ウラジミール・エルナンデス Vladimir Hernández「引渡地点」 Punto de entrega 
キューバのハバナ出身の作家で、二〇〇〇年からバルセロナ在住。人類圏から遠く離れたプエルト・グリス(灰色宙港)へ、怪しい荷物の運送を依頼された俺は、荷受人のリゲル人であるトカゲの裏切りにあったが、そんな俺を救ってくれたのは猫型異星人だった。キューバにもこんな話を書く人がいるんだねと思わせるくらいのストレートなスペースオペラ。

 
アンヘル・トーレス・ケサーダ Ángel Torres Quesada「幻想の世界」 Un mundo de refrejos スペインSF草創期からの作家。今日は妻の父親が来るという。承諾を得ずに結婚してしまったので、私のことは良く思っていない。ただ久しぶりに娘と孫に会いに来たというわけではなさそうだ。と、普通の地球人の家庭の話かと思いきや、話が進むうちに主人公は青い象の姿で、地球の生活スタイルを地球から何百光年も離れた惑星に「第二の地球」を作ろうとしていたという、とんでもない展開に。

「夢の紡ぎ手2005年度版」
Fabricantes de sueños Selección2005 (AEFCT, 2005)

ホセ・カルロス・カナルダ、アントニオ・ホセ・セルベロ、ホセ・ビセンテ・オルトゥーニョ選
José Carlos Canalda & Antonio José Cerveró & José Vicente Ortuño
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