AEFCFT(スペインF&SF&T協会)出版の年次傑作選である。今年はテルビというビルバオのSF例会のメンバーによるセレクションである。前年度版まであった、著者と作品についての解説がなくなり、表紙イラストもあまりセンスがいいとは思えないなど、ちょっと手を抜いたかと思われるが、作品自体は読み応えのある作品を13作ならべている。

 
エリア・バルセロElia Barceló 「第五原則」La quinta ley 初出:アシモフ誌No17。 バルセロはスペインの中堅女性SF作家。もうすでに訪れる人もいないアイザック・アシモフ博物館。年老いた館長とアンドロイドが家族のように暮らしていた。ロボットに三原則があるように、人間には五つの原則がある。星新一のショートショートのような味わい。

 
ルイサ・マリア・ガルシア・ベラスコLuisa María García Velasco 「暗闇の天使」El ángel oscuro 初出:ガラクシア誌No.17。 家具付きの売り家に越してきた若夫婦は、前の家主の日記を見つける。それは、最初は愛の記録に見えたが、独占欲にかられた女が男を殺害した記録だった。警察に知らせようとすると前の家主が訪ねてきて、あの日記は自分の創作だから返してほしいというが・・・。最後のどんでん返しがきいたホラーの好編。

 
マルク・ロドリゲス・ソトMarc Rodríguez Soto 「寿司」Sushi 初出:アンソロジー アルティフェックス第三期Vol.1。 3ページたらずの短い作品。となりで寝ている妻があまりに静かで死んでしまったのではないかといぶかる夫。確かめたいが、死んでいるのがわかるのも怖い。8時半にセットしたラジオがもうすぐなるので、それでわかるはずだ。というところで終わっている。「寿司」がどこにでてくるかというと、昨日の晩に寿司を食べたが、まさか、あたったとか? というところだけ。

 
セルヒオ・ガウト・ヴェル・ハルトマンSergio Gaut vel Hartman 「負債者」El deudor  初出:ガラクシア誌No.15。アルゼンチンの作家。前年度に続いての登場。負債を返すために、耳に始まり、次々と鼻、歯、舌、手、足、目を奪われていく男。ハルトマンの作品には、初期の作品集「使い捨ての身体」野影響か、こういう体の部分がばらばらになっている状態のテーマが多い。

 
ヨスYoss「アンブロトス」Ambrotos 初出:ウェブジン アクソンNo.154。 キューバの作家。人類初の恒星間宇宙船が遭難し、パイロットが一人だけある惑星に取り残された。しかし、412年後、彼は生存したまま、アンブロトスと名づけた異星の遭難者とともに、地球の船が降りてくるのを見た。地球人から見れば怪物としか見えないアンブロトスと、地球の男との友情が胸を打つ。

 
アントニオ・セブリアンAntonio Cebrián 「神の忘れ物」Los olvidados de Dios 初出:ウェブジン アクソンNo.147。 ある日、沈みかけた太陽が止まった。世界中が大騒ぎする中で、死者が墓から這い出てきた。キリスト教徒は「最後の審判」だというが、他宗教の信徒はそれを認めないので、宗教戦争に発展する。そのうちに、死者は空にあらわれたドアの中に入っていく。その列に紛れ込み、ドアの中に入った一兵士が見たものは・・・。ナンセンスになりきれてない、シュールな怪作。

 
ガブリエル・メリダGabriel Mérida 「わたしを見るな」No me miren 初出:ウェブジン アクソンNo.154。 移植用器官製造会社で殺人事件が起きた。調査に赴いた二人の刑事が手、脚、腕などがずらりと並んだ部屋を通り、眼球の部屋に入ると、すべての眼が一斉にこちらを見た・・・。ミステリー仕立てのマッド・サイエンティストもの。

 
ビクトル・コンデVíctor Conde 「普遍のCHON」El invariante CHON 初出:アルファ・エリディアニ誌No.17。 超新星の調査のために訪れた星系で、地球の調査船は車輪人類を隷属状態にした第三渦状銀河腕人の宇宙船と遭遇した。「知性化戦争」をほうふつとさせる設定だが、あれほど徹底してはいない。しかし、スペインではあまり見かけない珍しいタイプのハードSFではある。ちなみに、CHONとは「炭素、水素、酸素、窒素」。クライマックスで大事故が起こり、車輪人類は第三渦状銀河腕人から逃れて地球人類に救われるのだが、身体の組成が違うということで、もとの隷属状態へ帰っていくのである。

 
カルロス・アブラハムCarlos Abraham 「アレクサンドリア図書館」La biblioteca Alejandría 初出:アンソロジー アルティフェックス第三期Vol.2。 ペルーのポトシ大学の教授のフランシスコは、図書館にあった古い王冠のようなものをかぶると、気が遠くなって倒れてしまった。目が覚めると、そこは言葉も通じない未知の国だった。しかし、彼はそこでは時計工で、妻も子もいるという。町の長老から言葉を習い、彼はこの街で生きていく決心をする。そして、そこで一生を終えようとしていたとき、蛮族が攻めてきた・・・。時間の流れがゆったりとしているファンタジー。

 
エゼキエル・デルトリEzequiel Dellutri 「最期のとき」Final 初出:アンソロジー「ハバナからの手紙」。 ボスのロボが「誰も俺の金は奪えない」というので、俺なら出来るということを証明するためだけに、俺は自分の口座に全額を移した。その結果、俺の命は今夜の3時までということになった・・・。ワルとワルがぶつかるピカレスク・ロマン。

 アントニオ・フエンテス・サンツAntonio Fuentes Sanz 「ユリシーズ」Ulysses 初出:アルファ・エリディアニ誌No.18。 過酷な条件でも任務を果たせる人間そっくりのロボット、Sシリーズ。ユリシーズという名前のS-772574は軍務について25年経っていた。しかし、密輸業者掃討の任務に就いたとき、ユリシーズは命令に逆らい、自分で独自の行動を開始した。神林長平の「膚の下」の上面をすくったようなミリタリーSF。

 ホセ・アンヘル・メネンデス・ルカスJosé Ángel Menéndez Lucas「無効の時間」Tiempo muerto 初出:アルファ・エリディアニ誌No.15。 時を止めることができるアンティーク時計を持っているレイヴワース教授は何でもし放題。今日もある女性の歓心を買うために時計をフル活用。ところがある日、その時計は自分のものだという男が現れて・・・。コメディタッチで始まるが、最後はちょっと怖い話になる。

 ホアキン・レブエルタJoaquín Revuelta「ユダの裏切り」La traición de Judas 初出:アンソロジー アルティフェックス第三期Vol.1。 謎の男ミスター・スミスから息子のマイケルを探してほしいと頼まれたユダは、さまざまなトラブルにまきこまれてゆく。脳に移植するチップや、ナノマシンが日常化している街で、マイケルはミシェルという女性になっていたり、ユダは記憶を操作されたりで、状況がコロコロ移り変わっていくハードボイルドSF。

「夢の紡ぎ手2006年度版」
Fabricantes de sueños Selección2006 (AEFCT, 2007)

テルビ(ビルバオ例会”テルトゥリア・デ・ビルバオ”)選
Seleccionado por TerBi(Tertulia de Bilbao)

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