メキシコのSF作家、ガブリエル・ベニテスがアニメ制作会社「エクソド(Exodo)」のために書き下ろしたアニメの原作。制作側はとても乗り気で、コンセプトアート(http://guerrerosdelaire.weebly.com/)まで作ったのだが、結局は、制作まで至らなかった。作者のガブリエル・ベニテスとは2009年からFacebookでの知り合いで、この本は出版前のPDFの形でFacebook経由で送ってもらったもの。「Sólo para tus ojos (For your eyes only)」だから、他の人には見せないでねということだった。

 その昔、人類がまだ地表に暮らし、大都市を築いていた頃、空から6体の悪魔が降臨し、あらゆる知識と技術を人類に与えた。人類はその技術を使いさらに発展したが、地表は荒廃し人は住めなくなり、、生物は突然変異を起こして怪物化した。それ以来、人類は空中に避難することになり、地表に降りずに空を飛ぶマンタなどの生物を狩って生活しているうちに、技術が失われていった。
 本作の主人公は小さな浮遊村落に住みマンタを狩る銛士の若者、ミキエル。最近はマンタの数も減り、浮遊村落のエネルギー源となっている今は失われた太古の技術の遺産である飛行石「ブリル(Vril)の値上りも激しい。ある日、老人とその孫娘ミラが乗ったグライダーがこの村落と接触事故を起こす。お詫びにと、二人をもてなす村の長は老人の博識に驚く。マンタの革の行商と修理部品や飛行石の調達のためには、大きな浮遊市街地に行かなくてはならない。飛行石の売買はギルドが一手に引き受けているからだ。その街で散策中に、老人が誘拐された。一緒にいた孫娘ミラはピストルを向けたが、その狙いは老人に向けられていた。「これはおじいちゃんとの約束なの」といって。誘拐犯らは眼下に広がる雲の海の下に消えた。ミラは一人でも老人を追いかけるといって聞かなかったが、ミキエルはなんとか説得して、一緒に地表に向かうことにした。雲の中は凄まじい暴風と雷鳴の嵐だった。グライダーは破損したが、やっとのことで不時着。ところが、巨大ムカデが現れてミラがさらわれてしまう。一人になったミキエルにまたもや巨大ムカデが近づいてくるが、その背中には人が乗っていて、その人物とは数ヶ月前に石が足りなくなって雲海の下に消えた彼の友人の一人だった。地表に人は住むことができないと信じられてきたが、実は生存可能な程度には回復していたのだった。彼の助けを借りて、ミラがギルドの飛行石採掘現場に連れ去られたことを突き止めたミキエルは、巨大ムカデを駆って救出に向かうのであった。
 ここまでで全体の3分の2ぐらい。この後は、老人がその昔人類に技術を与えた悪魔の生き残りであることが判明したり、少なくなった飛行石を作り出すには、また地表に人が住めなくなるような重篤な連鎖反応を引き起こさなければならないことや、それには老人が頑として反対していることが描かれるのだが、アニメの原作として書かれただけあって、非常に視覚的で、まさにアニメを見ているようだ。コンセプトアートのサイトにある作者へのインタビューにもあるとおり、確かに「ナウシカ」や「天空の城ラピュタ」の影響が見て取れる。他にも、映画「ロケッティア」やコナン・ドイル「大空の恐怖」などを上げている。飛行石と環境との関係は、ちょうど原子力発電との関係にも似ている。ここでは、最後に人類は空に住むことをあきらめ、地上で暮らしていく決意をするのだ。

 

「虚空の戦士」
Guerreros del aire

Ediciones B (2016)


ガブリエル・ベニテス
Gabriel Benítez

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