スペインSF界のベストセラー作家、ラファエル・マリンの最新刊で、長編小説としては、6年ぶりの新刊である。「光の涙(Lágrimas de Luz)」(1984)、「神々の世界(Mundo de Dioses)」(2009)――入手済み、積読中――では未来を語り、「基本だよ、チャップリン君(Elemental, Querido Chaplin)」(2005)では1800年代を、「吟遊詩人(Juglar)」(2006)では中世を描いたりと、未来や過去の話が多かったマリンにしては珍しく、現代のカディス(マリンの在住地)を舞台にした長編小説。
 定年で退職した文学部の教授、ガブルエル・アマドールは、教え子だった医師の勧めで散歩をしていると、アラブ人の乞食に螺鈿作りの人形の眼を手に握らされた。翌日、海岸に老人の死体が打ち上げられたが、それは昨日、人形の眼を彼に渡した乞食の死体だった。その日から、ガブリエルは悪夢にうなされるようになる。気味が悪くなったガブリエルは、その人形の眼を海に捨てたり、壊したりするが、いつのまにかポケットの中にもどってくる。
 刑務所で看守を務めるジェイク・ハロランは、囚人の中に、他の囚人から一目置かれる存在のマイケル・フリアが気になっていた。ジェイクは妻に先立たれ、12才の娘、ロビンと二人だけの暮らしだったが、最近になって黒い服しか着なくなり、今まで好きだったアヴリル・ラヴィーンとかヒラリー・ダフの歌ではなく、騒音のようなギターと絶叫のような歌のパンクロックしか聴かなくなってしまった。しかも、夜になると、誰かが部屋の中にいるような気配がする。心配したジェイクが部屋を調べてみると、眼をくりぬかれた人形が数体隠されていた。そして、囚人のフリアの腕には、いつのまにか、ロビンの名前の刺青がしてあった。
 この二人の視点を中心に、ガブリエルと一緒にアラブ人のことを調査してくれる友人マリオ・アタロラ、そして、以前マリオと付き合っていたが最近カディスに帰ってきたアウローラ・ロハス、フリアと一緒に刑務所にいる囚人が友人に宛てて書いた手紙……、といった挿話が3ページから5ページくらいの分量でつぎつぎと語られていく。
 ジャンルでいったらホラーだが、昨年出版された「幽霊の肌(Piel de Fantasma)」という短編集もホラーのようで、こっちの方に作風がシフトしているのかも。そのせいか、今まで読んできたマリンの作品とは、また違うタッチで描かれている。3ページから5ページという短いページ数の中で、ぐっと盛り上げていって次の場面に移るという構成。ガブリエルの行動を追っていくうちに、読んでいるこちらもカディスの街を一緒に歩いている気分になるところも、特徴のひとつといえるかもしれない。

「仮面の街」
La Ciudad Enmascarada
(Editrial AJEC, Colección Penumbra 2, 2011)

ラファエル・マリン
Rafaeel Marín

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