Kindleで最初に買った本である。2013年5月現在312円だが、購入した2012年11月当時には236円だった。この著者には何冊か本を恵贈いただいたことがあるので、Kindle版が出たという話を聞いて、買ってみたのだが、こういう紙の本を買おうとすると送料の方が何倍も高くついてしまうだろう。つくづく便利な時代になったものだと思う。

 さて、本文の方は著者がこの10年に書いてあちこちの雑誌などに掲載されたもの(中には未発表のものも)をまとめた短編集である。短編といっても、4番目の大きさの文字・行間は標準(Kindleでは文字の大きさ、行間、ついでに書体までも選べるのだ)で2ページ、長くても3ページぐらいしかないの本当に短いものばかりだ。紙の本ならほとんどが1ページに収まってしまうだろう。そういう短編が「いつかは訪れなければならない国(Países que debo visitar algún día)」という章に10編、「嘘っぽい話(Apócrifamente hablando)」の章に17編、「どこかの庭の奇跡の生き物達(Animales y prodigios para algún jardín...)」に9編、「ワニの気分でちょっと長いエピローグ(Un epílogo menos breve pero con luna de cocodrilo)」に5ページの「鰐頭(Cocodrilocabezas)」が1篇、収録されている。

 第1章には、「たぶん来ない旅行者のために」という書名にふさわしく、奇妙な国の話が集められた。「スセアン:極小の国(Ssean: el país miniatura)」「カイ:賭博者の国(Kay: el país de apostadores)」「オトゥール:非存在の国(Otur: el país de inexstentes)」という具合である。この中で1篇選ぶとすれば、5編目の「タビ:有為転変の国(Tabi: el país de inestable)」を選びたい。「朝起きて、変わっていないものは顔かたちだけ。名前もわからないし、職業も違う。朝食を一緒に頂くのも、今日は息子がいるが、明日は妻も子もいないかもしれない。タビの国にいて良いことは、記憶に生きていなくてもいいということだ」 なんともいわく言いがたい味わいがある。

 第2章には「水銀の人魚(Sirenas de mercurio)」「キュクロプスの目(Ojos cíclopes)」「歴史の歪めながら(Deformando la historia)」「迷宮のないミノタウロス(Minotauro sin laberinto)」「マルタと双頭の男(Martha y su bicéfaro)」など神話、あるいは神話上の生き物の話を集め、第3章では「百足の夢(El sueño de cienpiés)」-ムカデはスペイン語でも「ひゃくあし」-、「毒蛇は嫌(El víbola no)」「蟻(Hormigas)」といった実在の生き物や、「グレゴール・ザムのもう一つの夢(El otro sueño de Gregorio Samsa)」の毒虫、「包帯(Vendas)」のミイラ、「治療(La cura)」の狼男、「想像のマスコット(La mascota imaginaria)」では女の子の想像上の友達である小さな生き物といった想像上の生き物についての話が集められている。前作「モンスターな人生(Bestiaria vida)」にも感じたことだが、こういう想像上のもの(中には実在するものもあるが)に対しての著者の限りない愛情というものが感じられて、すがすがしい読後感がある短編集である。
 

「たぶん来ない旅行者のために」
Para viajeros improbables
(Arlequín Editorial, México, 2012)

セシリア・エウダーベ Cecilia Eudave
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