スペインのスペースオペラの10巻目。収録作は第24話「固体光線(Luz sólida)」第25話「チタン人間(Hombres de titanio)」第26話「太陽は死んだ!(¡Ha muerto el sol!)」の三話分。

 今回から、物語は新しいサイクルに突入する。船の装甲や宇宙服の素材として使われている、いままで無敵を誇っていたデドナ鋼をあっさり打ち破る兵器を備えた新しい敵が登場する。

 これまで13話にわたって主人公を務めてきたミゲル・アンヘル・アスナールは総提督(Superalmirante)として第一線を退くことになったのだが、あとを継いだ息子の名前が、また同名のミゲル・アンヘル・アスナール。正式にはその後に母親の姓であるシュミットがつくのだろうが、本文にはその名前は出てこない。親の方はセニョール・アスナールとかドン・ミゲルとかと呼ばれていて、息子の方はただ、ミゲルとか、ミゲリートなどと呼ばれている。

 さて、その息子の方のミゲルは天王星の衛星オベロンの基地で、先祖のアスナール一族の伝記を読んでいて、「おれもこんな冒険がしたいなー」などと平和な時を過ごしていた。そこへ突然、警報が鳴った。平和ボケしたミゲルは誤報か訓練かと思ったが、監視映像に映っていたのは、デドナ鋼を紙のように貫通する、今まで見たこともない黄色の光線を発する「Ω」の形をした小型の飛行物体だった。オベロンの地球艦隊は大敗を喫したが、なぜかΩは撤退していった。

 数日後、地球へ案内することを条件に生存を許された地球の戦艦から連絡が入った。ワシントンに降り立った戦艦から、腕の先にペンチ状の手がついた、円筒状の宇宙服を身につけた異星人が出てきた。かれらは、ひと言も言葉は発しなかったが、「我々はサドラの代表団。天王星の平和的割譲をを希望する」というトルボッド文字のタイプライターのようなものを掲げ、奇妙な筆談がはじまった。

 しかし、固体光線という強力な兵器の秘密を解明しないでこの提案に乗ることはできない。ミゲル・アンヘルは父親の反対を押し切って、天王星基地へ潜入し、その秘密を探るコマンドに加わった。そして、拳銃タイプの固体光線装置を持ち帰ることに成功した。

 一方、戦闘宙域では、黄色の大きな複眼をつけた拳ふたつくらいの頭に、二十数本の触手がはえた生物の死骸が発見された。生物学者のカスティーリョ教授は、ミゲル・アンヘルの幼馴染で娘のポロニアと共に、この「蛸」のような生物がサドラ人の正体であるという仮説を立てた。しかし、もっと詳しく調べるには、生きたままのサドラ人を調べる必要があった。  

 今回は、地球からの公式訪問団にまぎれて侵入することになったが、その訪問団には父親のミゲル、潜入チームにはポロニアが参加することになった。出発する前に、ポロニアとの結婚の意志を確かめるミゲル。だが、彼女は頑なに拒んだ。
 首尾よく、蛸どもを捕まえて脱出にかかろうという時、訪問団がサドラ人に攻撃を受け、監禁された。ミゲルは父親を救助するため基地に戻ったが、ポロニア達は小型艇で脱出した。なんとか救出に成功したミゲル一行は帰還の途中で小型艇の残骸を見つけるが、それはポロニア達が乗っていたものだった。

 そして、サドラ人は次の手を撃ってきた。ヘリウムをつめた小惑星を太陽にぶつけて、太陽にヘリウム核融合を起こさせ、さらに高熱にして地球を焼き始めたのだ。このプロセスは後戻りできない。金星、地球、火星の三惑星連合は太陽系から避難せざるを得なくなった。避難先は4千年前に人類が避難していた惑星レデンシオンと絶滅したトルボッドの星系。すでに建設を進めていた惑星船で、人類はそれぞれの避難先へ旅立って行った。しかし、惑星連合軍はこのまま逃げるわけにはいかないと、サドラ人に攻撃をしかけるのであった。

 このシリーズの編集はOCRを使ってデジタルデータを作成しているのか、いわゆる「変換間違い」がよく見られるのだが、この巻では目立ってそういう間違いが多く見られる。"había"となるべきところがすべて"habla"になっているなど、すぐにわかるところだからいいものの、なんとも読みにくい。



《アスナール・サーガ10》
固体光線 Luz sólida 
(Silente,2002)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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