スペインのスペースオペラの13巻目。収録作は第31話「遥かな世界(Universo remoto)」第32話「巨大生物の世界(Tierra de Titanes)」の二話分。1958年のアスナール・サーガ12巻30話までを第1期として、いったん幕を閉じたこのシリーズだが、17年後の1975年6月、第2期としてこの「遥かな宇宙」が始まる。今、手元にある復刊シリーズの13巻は2003年に出版されたが、これは第1話「金星人の脅威(Los Hombres de Venus)」が出た1953年からちょうど50年に当たるということで、「50周年特別版(Edición Especial del Cincuentenario(1953-2003)」と扉に書いてある。表紙の紙質もより白くなり、3DCGのイラストがつくようになった。本棚にさして背表紙を並べると、この13巻から明らかに白くなっているのがわかる。

 さて、31話「遥かな宇宙」は前巻で親兄弟を処刑され、惑星船バレーラでレデンシオン星を後にしたミゲル・アンヘル・アスナール・ポラリスが276年の冷凍睡眠から目覚めるところから始まる。最初は自分の名前さえ覚えていなかったが、徐々に記憶を取り戻していく。バレーラは新しい世界を求めての長い旅の果てについに居住できそうな天体を見つけたのだが、そこは普通の惑星ではなく恒星の周りをとりまく帯状の構造物、この小説では「軌道天体(circumplaneta)」と呼ばれているが、いわゆるリングワールドである。一方、バレーラ船内ではアスナール一族は軍を支配し、要職を独占していたとして忌み嫌われていたが、反体制派が徐々に力を伸ばし、反乱を起こしそうな情勢になってたので、政府は反体制派の象徴といえるミゲルを取り込んで反乱を起こさないように演説をさせようとして、この時期にミゲルを覚醒させたのだ。しかし、ミゲルは政治に利用されることを拒否。政府がミゲルを洗脳して強制しようとしたところを、反体制派が病院を襲撃しミゲルを救出する。ミゲルは反体制派にも協力することを拒んで反体制派のもとを脱出するが、警察に勾留されてしまう。結局、反乱は不発に終わり、反体制派は全員逮捕される。政府側は反体制派に「軌道天体」に移住するか、バレーラ内に残って勾留されたままでいるか選べと迫る。ミゲルと多くの反体制派は移住を選び、輸送船で移住を開始した。しかし、まえもって軌道天体を調査していた調査隊が持ち帰ったサンプルから致命的な病原体が漏洩、バレーラ内で猛威を振るう。バレーラの住民はほぼ壊滅状態になり、無事だったのは感染する前にバレーラを発った反体制派のみという状態に。バレーラの窮地を知ったミゲルは、高速の搭載艇で、輸送船より早く軌道天体に到達してワクチンの製造を試みるが、そこにはトンボのような蚊や鳥のようなトンボなどの巨大な昆虫が生息していた。

 32話「巨大生物の世界」では、ワクチン製造に成功し、なんとかバレーラの全滅を救ったミゲルたちは巡洋艦3隻で、幅1000万キロメートル、直径38億キロメートルという広大な軌道天体の内側の探索を始めた。しかし、探索を始めてしばらくすると、飛行物体の攻撃を受けたが、その飛行物体は燃焼系のエンジンでテクノロジーではかなり劣っていた。武器も非力なものだったので、一隻を拿捕してその飛行物体に近づいてみると、その中から出てきたのは馬のような大きさのカマキリだった。この飛行物体が飛び立った基地を探そうと、ミゲルたちが離陸したところで、いきなりすべての動力が落ち、海に墜落した。船体が裂け、浸水してきた。大部分の隊員は船から脱出し、陸に上がってきたが、なぜ、墜落したかを検証してみると「重力波」の攻撃を受けたらしい。しかし、「重力波」などという進んだ技術は、先ほどの飛行物体の技術レベルからして、到底出来るものとは思われなかった。装備のほとんどを失ったまま、一行はこの謎を探るべく密林の中の行軍を開始した。

 ラリー・ニーヴンの「リングワールド」は幅160万キロ、直径3億キロだから、後にアトロン(Atlón)と名づけられるこちらの「軌道天体」のほうが遥かに大きい。「リングワールド」が書かれたのが1970年で、この「遥かな宇宙」が書かれたのは1975年だから、当然、作者は知っていたと見るのが普通だが、脚注には、作者は70年代のSFは知らなかったので、「リングワールド」のことも知らなかったに違いないと書いている。

《アスナール・サーガ13》
遥かな世界 Universo remoto 
(Silente,2003)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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