スペインのスペースオペラの14巻目。収録作は第33話「死の天使(El Ángel de la Muerte)」第34話「新しい魔術(Los nuevos brujos)」の二話分。惑星船バレーラが軌道天体アトロンに到着してから1年後の物語である。

 アトロンの都市の廃墟から発見された石碑に記された文字を、考古学者のエラディオ・ロスが解読した。「あまたの命が無に帰する/我らの民の運命によって/死の天使が死する時/予言は成就されるだろう」という内容だったが、発見者のカスティージョ博士父娘には徹底的にばかにされた。しかし、自分の解釈は間違っていないと確信しているエラディオは、ついに「死の天使」の手がかりを発見し、頑丈な扉で閉ざされた地下室に行き着く。固体光線銃で扉をこじ開けてみると、そこに横たわっていたのはたった今息を引き取ったばかりに見える女性の遺体だった。この一帯は炭素測定で2万年以上前の遺跡であるとの測定結果が出ているのに! しかも、その長く白い髪に光が当たると、生命の兆候を示し始めたので、巡洋艦「ブラジリア」に収容し検査をしてみると、彼女は精巧なロボットであることが判明した。イスラムの「死の天使」にちなんでアズラーイール(Izrail)と名づけてスペイン語の教育を始めると、たちまちのうちに習得した。十分に習得したところで、アズラーイールに自らの出自を語らせた。この軌道天体アトロンを建造した種族バルトプール(Bartpur)は衰退していた。昆虫を発達させ知性を持たせる実験が暴走し、異常繁殖して都市は壊滅状態に陥った。起死回生策として、種族を丸ごとデータに記録し、後の世界で復活させることができる機械「カレンドン(Karendon)」を開発し、それを守護するロボットとして作られたのがアズラーイールだった。そして、種族を復活させてくれる若い種族を呼び寄せるために、信号を発していたところへ到着したのが、アスナール一行だった。
 最初はばかにされていたが、後になって大きな発明や発見につながるというパターンはわりとあって、物体縮小化技術などはこれだった。また、男女の仲もこのパターンが多く、今回のエラディオ・ロスとシルバーナ・カスティージョも最初はお互いに毛嫌いしていたが、アズラーイールとかかわっていくうちにお互いのことを認め合うようになり、終盤では結婚までこぎつけている。

 第34話では、一度は議会に承認され、カレンドンはバレーラに移送されたが、5000万人もの「難民」ともいえるバルトプール人を受け入れることにバレーラの住民が強く反発し、百万人規模の暴動が起きた。その結果数多くの犠牲者が出たが、そのうちの一人がミゲル・アスナール提督の妻、――冷凍睡眠から目覚めるときに手厚く看護してくれ、政府から逃亡生活をしていたときにもかくまってくれた看護婦――のサラだった。事態を重く見た大統領はアスナール提督を呼び出して、カレンドンをアトロンに返送するように命令した。一方、カレンドンではバルトプール人の再生が始まっていた。最初に出てきたのは、一番最後にカレンドンに入ったバルトプールの指導者アルドリック・バン・アデール(Aldrik Ban Ader)とその家族だった。彼らには一種のテレパシーのようなものがあり、目を見ていると相手のいいたいことがわかるので、アズラーイールのようにスペイン語を学習する必要がなかった。アデールによると、カレンドンは原子などの構成要素が記録されていればどんなものでも再生できるという。だから、何万人とバルトプール人が再生されようと、カレンドンで食料などの調達はできるし、人間の再生は人格データがなければ再生できないので、無制限に増えることもない。理論的にはエネルギーがあればこの機械で艦隊さえも製造も可能だという。これさえあれば、農場や工場なども不要になる。この「新しい魔術」のような機械の情報を大統領に伝えると、政府は軟化してカレンドンの技術供与を条件として、輸送艦とアトロン内の昆虫人間を駆逐するための戦艦を提供することになった。バルトプール人はテレパシーのほかに、念動力や瞬間移動なども備えており、祖先は宇宙を駆け巡り生命の進化にも無数に干渉してきたという。しかし、今や種族としての力が衰え、新しい生命が生まれなくなってしまい、カレンドンに逃げ込むしかなくなったのである。本文には明記していないが、人類をはじめとするヒューマノイドの生物のルーツはこのバルトプール人だったのではないかと巻末の解説では述べられている。解説のマリオ・モレーノ・コルティナはここに同時期の70年代にブームとなったエーリッヒ・フォン・デニケンの影響を見る。

《アスナール・サーガ14》
死の天使 El Ángel de la Muerte 
(Silente,2003)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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