スペインのスペースオペラの16巻目。収録作は第37話「時間旅行者(Viajeros en el tiempo)」第38話「未来からの来訪者(Vinieron del futuro)」の二話分。

 第37話。アトロンで獲得した重力制御技術を応用した超光速航行の実験がはじまった。重力制御によって慣性を中和して得られる亜空間(サブスペース)を経由して、光速を超えようとする試みだ。この技術により、時間をさかのぼる可能性も議論されたが、軍上層部では実験反対の意見のほうが多かった。しかし、ミゲル・アンヘルとフィデル兄弟は策を弄し、竣工したばかりの実験船<ソンダⅠ>を半ば強奪して電子技師のアルバラードと3人で実験航宙に旅立った。プログラムどおりカレンドンから実体化した3人は2万5千年の時間を遡った1945年の地球の周回軌道にいた。<ソンダⅠ>をアルバラードと共に上空3万キロに残し、ディアマンティナの宇宙服と飛行装置をつけたミゲル・アンヘルとフィデルはドイツのドレスデンに降り立った。そこで、二人はハンス・ルデル老とその娘カテリーナと出会う。敵国のスパイと疑われ軍から攻撃を受けた二人は、カテリーナに自分たちは未来から来たことを打ち明けるが、そのとき、連合国によるドレスデン空爆が始まった。

 第38話。親衛隊大佐エドワード・レーリッヒはハンスとカテリーナ・ルデル父娘を捕らえ、尋問の上、ハンス老を処刑する。カテリーナも処刑されるところだったが、妊娠していることがわかったので、刑の執行が猶予されていた。ルデル父娘の尋問でフィデルが未来から来たという話は聞いているのだが、信じられないでいるところへ、一度は<ソンダ>へ戻ったフィデルが軍司令部へ出頭した。カテリーナを釈放しろと言うのだ。レーリッヒは未来から来たという話は信じられないながらも、彼らが不思議な力を持っていることは知っていたので、カテリーナを釈放する代わりに敗戦が色濃くなってきたドイツに加勢しろと持ちかける。もちろん、フィデルは応じないので、レーリッヒはフィデルを拘束する。拷問を受けても動じないフィデルだったが、ある日、自分から代謝を極限まで落とした仮死状態になる。フィデルが持っていた通信装置で上空の<ソンダ>にいるミゲル・アンヘルと交渉したレーリッヒは北部の都市リューベック沖30マイルの洋上で落ち合うことになった。宇宙船に乗り込んだレーリッヒはその技術力に圧倒され、フィデルを救うためにドイツを攻撃することも、ドイツを救うために連合軍を攻撃することもできないというミゲルアンヘルに説得された形でベルリンに帰ってくる。仮死状態が続くフィデルをなんとか元に戻そうと、上司の意思に反してレーリッヒはカテリーナを移送する策略を立てる。連合国の爆撃が激烈さを増す中、フィデルは仮死状態を脱し、ドイツからの脱出を試みるが、忠誠を誓うべき国家も、家族も友人もなくしたレーリッヒを一緒に脱出しようと誘う。
 <ソンダ>はバレーラに帰還を果たし、レーリッヒは無事カレンドンから実体化するが、カテリーナは魂の再生に失敗し、身体は実体化したものの意識が回復しなかった。いつものパターンだとカテリーナはアスナールの一員となり、息子が次のシリーズの主人公になるのだが、今回はそのパターンを外してきた。また、ドイツ親衛隊大佐レーリッヒは後のシリーズで活躍する場面があるらしい。

《アスナール・サーガ16》
未来からの来訪者 Vinieron del futuro 
(Silente,2003)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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