スペインのスペースオペラの17巻目。収録作は第39話「宇宙の彼方へ(Al otro lado del unverso)」第40話「怒りの小惑星(El planetillo furioso)」第41話「幽霊軍隊(El ejercito fantasma)」の三話分。

 第39話。1945年の故郷ドイツを捨て、25651年の惑星船<バレーラ>に来たエドワード・レーリッヒにはすべてが新鮮だった。健康面で悪いところはなかったが、<バレーラ>が2000年にも及ぶ亜空間航行を実行するに当たって、カレンドンで再び非実体化するのは彼にとって大きな抵抗があった。「昔ながらの」冷凍睡眠という手法をとることもできるが、問題は2000年という長期の航行期間。低代謝と言っても代謝していることは変わりはないので、それに耐えうる臓器の移植が必要だった。バレーラ人医師としてはリスクの少ないカレンドンでの非実体化を勧めたが、レーリッヒは医師団の反対を押し切って冷凍睡眠を選ぶことにした。冷凍睡眠後、レーリッヒはコンピュータの指示通りに蘇生に成功したが、どうも様子がおかしい。時計は27538年。2000年の予定より115年も早い。病院内は地震の後のように散乱していた。外に出てみると、明らかにバレーラ人ではない人間が瓦礫と化した街に道を切り開いていた。<バレーラ>は侵略されていた!レーリッヒは病院に戻り、なんとかカレンドンを操作し、フィデル・アスナールを始めとするバレーラ人を実体化させた。次々とバレーラ人を実体化させてある程度の人員を組織すると、侵略者の一人を捕虜にとりフィデルの精神能力で尋問した。それによると、バレーラはある天体と衝突、航行が止まったところへ近傍の惑星ウーランから調査隊が来てバレーラ船内に侵入、簒奪を始めて既に7年目に入った。科学技術水準はバレーラよりは下だが、多勢に無勢なので、少し押され気味。コントロール・ルームはまだ侵略されていないが、もうすぐそこまで来ていた。ここを征服されれば、すべてを失ってしまう。必死で抵抗した結果、船の駆動エンジンを起動させることに成功、母星から遠ざかっていくことを悟った侵略者たちは一斉に撤退していった。
 今回も前回に続き、レーリッヒが主人公。話の展開も、これまでは出合った敵のハイテク装置を奪って自分たちのものにしてきたが、今回は反対の立場になった。レーリッヒが反対されながらも冷凍睡眠に入ったおかげでバレーラの危機を救うことができたのだし、そう考えてみると、面白い展開になった一幕であった。

第40話。惑星ウーランから遠ざかることで、一旦は船内の侵略者を一掃したが、7年間の侵略でバレーラからは戦闘艦や輸送艦などの艦隊を始め多くの機材を運び出されていた。そのなかに非実体化されたままの400万人の住民が記録されたままのカレンドンも多数含まれていた。これでは捕虜にとられたと同じことだ。バレーラはこの400万人の捕虜を取り返すために再び惑星ウーランに向かう。惑星ウーランの温暖な地域に住む人達は温和な性格だったが、厳しい寒さの北部に住むアンコル国の住民は好戦的で、軍事力を蓄えながら周辺国に侵略を繰り返し領土を広げてていた。睡眠学習装置を利用して周辺国の住民を奴隷化していったアンコル国は惑星ウーラン全土を支配するまでになっていた。そんなときに出現したのが、先進技術を満載したバレーラだった。アンコル国は力をさらに伸ばしつつあった。バレーラは惑星ウーランに戻るにあたって、新兵器を開発していた。昆虫型のカメラ搭載の小型ドローン「マルハナバチ(abejorro)」と表紙のイラストにもなっている「コマ(trompo)」と呼ばれる直径36メートルの小型円盤。頂点の十字型固体光線砲台で敵船内に突入し、内部で核爆発を起こすといういわば対艦専用ミサイル。そして、大きな役割をになったのが、カレンドンに通信装置を取り付けて非実体化したデータを別のカレンドンに送信し、そこで実体化するという転送型カレンドン。アンコル国はすでに住民を実体化させて労働力として使役しているので、交渉が決裂した場合はこれを使うしかない。交渉はもちろん決裂。救出作戦が始まった。ミゲル・アンヘルはアンコルの精神操作を解かれたウーランの女性科学者ラウダ・コナックと新婚夫婦を装ってアンコル国の都市に潜入し、捕虜の居場所を探り出し、救出を開始した。
 今回の主人公はフィデル・アスナールの兄、ミゲル・アンヘル。救出作戦のパートナーはウーランの女性なのだが、人間そっくりでありながら、ウーランの女性には乳房がないということになっている。「人種」が違うとあっさり説明されているが、次話でウーラン人は卵生人間であることが判明する。

第41話。今回はこの一連の展開を惑星ウーラン側から見た話となっている。ある日突然、ひとつの小惑星がウーランに向かってくるのが観測されるが、近づいてくると減速して軌道に乗った。自然な天体ではないと見たアンコル国の科学者たちは調査するうちに内部へ入る道を見つけた。宇宙戦艦をはじめ、驚異的なテクノロジーで満載だった。数年をかけてこの小惑星内で使われている言語を解析した。今回の主人公、若きアンコルの科学者ハンゴ・ノダはバレーラから略奪してきたカレンドンを調査していると、偶然にバレーラ人を一人実体化させてしまう。この人物の尋問で研究はさらにすすみ、カレンドンでカレンドンをつくり、超大型カレンドンで戦艦そのものを出力するところまで来ていた。このカレンドンという機械、第14巻33話の「死の天使」に初登場するが、この41話でスーパーマシンぶりを発揮する。当初は人間を分解してデータを保管し、後に再構成するという冷凍睡眠の進化した形であらわれたが、この作品では食料や工業製品まで出力でき、ついには転送装置の機能まで付加された。今の技術でいえば、3Dプリンターを発展させたものといえ、「スタートレック・ネクストジェネレーション」(1987~)のレプリケーターに近いものがある。この41話が書かれたのが1976年であることを考えると、相当の先見の明があったと思われる。さて、このカレンドンをアンコル国は周辺国家に富を分け与えるというよりは、支配する道具として使用し、これまで食料や工業製品を作るために使役していた周辺国家住民の労働力が不要になったため、彼らを処分するためにカレンドンで分解するという使い方までするようになった。このやり方に疑問を抱いたハンゴ・ノダは次第に激しさを増すバレーラ側の攻撃に対処するべく研究を急がせる政府に対して、反政府的なサボタージュをひそかに始める。そこにカレンドン研究の第1人者のハンゴ・ノダを暗殺するべく、前話でバレーラと反政府活動をするようになったラウダ・コナックが近づいてくる。しかし、ノダが反政府的な考えを持っていると知ったラウダはノダを仲間に引き入れ、本格的な攻撃に参加する。独裁政権を壊滅させたバレーラは、同じくハンゴ・ノダの姿勢に同調したラウダ・コナックの父、コナック伯爵を大統領、ハンゴ・ノダを首相とする暫定政権の樹立に手を貸して惑星ウーランを後にするのであった。ハンゴ・ノダはこのとき、ラウダ・コナックと結婚。ミゲル・アンヘルはラウダに未練はあったのだが、ウーランの種族は卵生人間だったので、泣く泣く諦めたのだった。

《アスナール・サーガ17》
宇宙の彼方へ Al otro lado del universo 
(Silente,2003)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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