スペインのスペースオペラの18巻目。収録作は第42話「反物質 !(¡Antimateria!)」第43話「異次元の地球(La otra tierra)」の二話分。

 第42話。惑星船バレーラは航行中に宇宙船と遭遇する。呼びかけるとミサイルを撃ってきたので反撃すると船殻が割れて液体が漏出してきた。凍結した氷の中に生命体が見えたので宇宙飛行士が調べようと氷に触れた瞬間に大爆発が起きた。彼らは反物質世界の水棲生命体だった。さらに、彼らの済む惑星は連星系で、5年後には衝突して惑星が滅びてしまうことがわかった。彼らを絶滅の危機から救おうと、カレンドンを改造して、反物質で実体化することができるようにした。これで彼らと接触ができる。惑星アクアのトリトン人と名前をつけて、別の居住可能惑星を探して移住させようという救出作戦が開始された。フィデル・アスナールを始めとする派遣隊が惑星アクアに降り立ちアクアの政府代表と会見しようとしたところ、ミサイルが飛んできて爆発し、派遣隊が行方不明になってしまった。過去の地球のドイツ人女性カテリーナとフィデルの息子であるフィデル・アスナール・ルデルには微かながらにテレパシー能力があったので、捜索隊に参加し会見を予定していた政府代表と対立している国家勢力から救出することに成功する。ユボ(Yubo)とケド(Kedo)の二つの国家は相容れずに、同じ星に移住することは頑として受け入れない。そのうちに連星の衝突は5年ではなく数ヶ月の問題と判明する。もう時間がない。すべてのトリトン人がカレンドンで非実体化する前に衝突は始まった。息子のフィデルから見て祖父のミゲル・アンゲル総提督は強く反対したが、フィデル親子はトリトン人の新惑星探索に同行することになる。惑星船バレーラは彼らを残し、軌道惑星アトロンを目指して旅立った。

第43話。1976年に出版されたバレンシア出版(Editora Valenciana)版では、「反物質!」の次に独立した長編「星々の脅威(Las estrellas amenazan)」が来て、わたしが持っているシレンテ版ではこの43話「異次元の地球」の後に来る「百万年(Un millón de años)」がその次に来る。つまり、シレンテ版では1作飛ばして、43,44は順番を逆にしているわけだが、物語の内容からしてこのほうが妥当と判断し、この順番になった。ここではシレンテ版に準拠して数えることにする。
 ニューヨークの新聞社「ワールド&ライフ」の記者ベティ・セットンがマンハッタンの警察署で取材中に、自分は宇宙から来たという男を海で救出したという漁師が下着一枚の若い男を連れてくる。精神病を患っていると判断した警察は精神科医に診せるため一時拘留することにするが、特ダネの匂いをかいだベティは隙をついて警察署を抜け出す。ロングビーチに部屋を借りて話を聞き、記事を書いたベティは新聞社に持ち込んだ。新聞が出ると話題にはなったが、拘置所を抜け出したことで警察や移民管理局、またスパイの容疑もかけられたためCIAからも追われ、ついにはつかまってしまう。折りしも軌道上に正体不明の巨大な宇宙船が見つかり急に信憑性を増したフィデル・アスナールの話。物質を生成できるマシン、カレンドンを独占しようとする動き、トリトン人を地球に移住させるのではないかという疑いも切り抜けて、フィデルはバレーラに帰還した。
 タイムトラベルものかと一瞬思うが、トリトン人の移住先を探す途中の物語なので、ここは反物質の世界。言ってみれば、パラレルワールドものなのである。この世界ではセルバンテスがドン・キホーテを書いていない世界だという記述がある。この設定でこれからも書けそうだが、著者はあまり気に入らなかったようで、これ以降、反物質世界の物語は書いていない。

《アスナール・サーガ18》
反物質! ¡Antimateria! 
(Silente,2003)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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