スペインのスペースオペラの3巻目。この巻に収められているのは、第7話「帝国の征服(La conquista de un imperio)」と第8話「闇の王国(El reino de las tinieblas)」の二話分。写真は1950年代に発行されたオリジナル版の表紙である。
 第7話は、灰忌獣人トルボッドに地球を占領され宇宙にさまよい出して43年経ったという設定で、今までの主人公、ミゲル・アンヘル・アスナールは提督として健在なれど、その息子フィデル・アスナールが主人公となる。
 球形船《閃光》は、43年にもわたる航宙でエネルギー源であるウランが枯渇しかかっているところで、やっと居住できそうな惑星にめぐり会えた。地球の二倍の直径があるのに重力は地球並みという謎はあったが、海も山も森林もありという理想的な星で、彼らは「レデンシオン(救済)」と名づけ、上陸を開始した。搭載艇《ナバラ》で付近を調査中に、未開状態の原住民らが争っている場面に遭遇し、5人の怪我人を収容した。はじめは敵対心をむき出しにしていた5人だったが、フィデルはそのうちの一人の女性と心を通わせることができ、言葉を交わすうちに、翻訳機も作ることができた。ブルドーザなどの建設機械も製作して地上に投入し、居住地整備も本格的になってきたとき、直径2メートルの透明な球に腕が二本ついた怪生物に襲われた。銃はきかない。言葉がわかるようになった原住民の女性ウーナによれば、この怪物を殺すには、先に口がついている腕を切り落とすしかないという。やっとのことで撃退して、死体を調べてみると、我々のような炭素を基本とした生物とは別系統の、珪素を基にしたシリコン生物であることがわかった…。
 第8話は、暗黒神に仕える女王、ティネ=アノヤが、球形の乗り物から降りてきた球形の頭部を持つ得体の知れない怪人たちを迎える場面で始まる。舞台はアスナールたちが居を構えたウーナの島、アミントゥの西、千キロメートルに位置する国、サール。もちろん、怪人の正体は宇宙服を着たアスナールたちだった。暗黒神トモックは毎年生贄を要求し、拒否すれば、「水晶人間」が出てきて人をさらっていくという。生贄を出すことにしてから、襲撃はなくなったので、生贄は欠かせなかった。折しも、国では生贄を捧げる準備をしていたが、フィデルはその「水晶人間」とやらは偽りの神だから、直ちにやめるように言うが、当然のことながら聞き入れられない。それではということで、丘の上に立つ神像を破壊し、その中に仕組まれていた機械を証拠として突き出すが、元々機械など見たこともないサールの国民に、神を冒瀆したとして石もて追われてしまう。フィデルは、水晶人間の正体を突き止めようと生贄とともに川を下り、地下へと下る長い洞窟の先にあったのは広大な地下世界! そこを支配していたのは、球形怪物と同じ系統の珪素人間で、紫外線を可視光線として見るため、地上の人間には暗闇としか見えない「闇の王国」だった…。
 この広大な空洞世界が「大きさの割りに重力が小さい」理由になっている。遠心力のため、地表に向かって重力が働き、赤道付近が一番大きいので水がたまり、極方向は小さいという描写はなかなか壮大でよろしい。しかし、アスナールたちはここで、珪素人間たちの大虐殺を始めるのはちょっといただけない。戦略上の理由から、まだ生贄になった原住民たちが続々と続いて来ているのに、多少の犠牲はやむをえないと洞窟を壊したりするのだ。
 次回は、「地球への出口」「世界の破壊者、来襲」「自動人間戦争」の三話収録。第一話の主人公、ミゲルが亡くなってから数年後の時代から物語は始まるようである。

《アスナール・サーガ3》
帝国の征服 La conquista de un imperio
(Silente,1999)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

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