スペインのスペースオペラの七巻目。収録作は第17話「対決!ナウム帝国(Contra el Imperio Nahúm)」第18話「緑の戦争(La guerra verde)」の二話分。
 第16話で海棲人の助けを借りてイバハイ王国を脱出し、自由の身となったアスナール一行は、王女オンディーナが住む珊瑚都市を表敬訪問する。その目的は、バレーラ奪還のための同盟を結ぶことにあった。国王トリトン2世と王女の歓待を受け、この国にエネルギーを奪う青い光線(Rayo Azul 英語で「ブルーレイ」である)の発生装置があることを聞き、これで対策が立てられると喜んだアスナールたちだったが、議会で同盟は否決されてしまう。それというのも、王女の婚約者に決められていたクロリス公が、あまりに王女がアスナールと仲良くしているのを見て嫉妬に狂い、議会を操作して、クーデターを起こしてしまったのだ。国王は幽閉され、アスナールたちも捕らえられる危険が迫っていた。王女の機転で、ブルーレイ技師ともども脱出に成功したアスナールと王女は、ブルーレイ発射基地のある氷の惑星ラグーンへ向かった。この基地を制圧して、ブルーレイ砲を手に入れれば、再びバレーラに向けて放射して防衛力を奪うことができる。そのうちにエアロックを破壊し、船内を空気を抜き、ナウム人を一掃してしまおうという作戦。しかし、この作戦では、船内の湖や緑地などの自然環境に多大な影響を及ぼしてしまうが、やむを得ないとして、作戦に踏み切るのだった。
 ここで登場する新兵器は、「パッケージ・ミサイル」と呼ばれる多弾頭ミサイル。今でこそそんなに新しい概念ではないが、これが書かれた当時は、まだ新兵器といってもよかったのだろう。

 続く第18話は「緑の戦争」という題がついているが、どういうことかというと、葉緑素に作用して植物の光合成を逆転させ、太陽から得たエネルギーを開放することによって植物を全滅に追い込むという、アスナール側の新兵器の話。首都のある星ノレーにこの爆弾を落とし、他の星との交易を押さえることで、食料などの供給を絶ち降伏を迫ろうというのだ。この作戦の準備中に、船内パトロール隊により、船殻表面にナウム人が隠れているのが見つかった。捕らえてみると、それはナウム帝国皇帝タスの娘アンバーを含む数名だった。王女の身柄と引き換えに、捕虜の解放をもくろむアスナールだったが、皇帝はそんなことには応じないと、自分を殺せと迫るアンバー。しかし、交戦すれば必ず殺すか奴隷にするという、王女のナウム流の気質を少しでも改めさせようと、アスナールは王女を母と妹がいる家庭に招きいれ、家族の暖かさを実感させる。というのも、この王女が絶世の美女で、またもや恋愛感情を持ってしまうのである。
 この「ナウム・サイクル」の主人公ミゲルはなんとも気の多い男だ。15話では潜伏部隊のアンヘラ、17話では海棲人オンディーナ、そして、ここではナウム人アンバーに恋心を抱く。まぁ、敵対的であれ、友好的であれ、主人公が多種族の(あるいは同種族でも他組織の)女性と知り合い、好きになってしまうというのはこのシリーズ全体のパターンでもある。
 そのうち、作戦の準備が整い、帰したくないアスナールの反対を押し切って、アンバーは惑星ノレーへ帰ってゆく。作戦は成功し、数ヵ月後、防衛力の弱まったノレーに降下すると、絶望したタス皇帝は自爆装置を作動させ、アンバー王女は茫然自失のところを発見された。結局、自爆は阻止され、皇帝はその時に死亡。海棲人のオンディーナ王女はクロリス公と和解して結婚、アンバーはアスナールとともにバレーラに乗り込み、めでたしめでたしで、この「ナウム・サイクル」の幕は閉じる。

《アスナール・サーガ7》
対決!ナウム帝国
Contra el Imperio de Nahúm
(Silente,2002)
ジョージ・H・ホワイト George H. White

inserted by FC2 system