2002年のスペインSF大会Barnaconで、参加者の投票によって選ばれるスペインの星雲賞というべき「イグノトゥス賞」の国内SF中篇部門を受賞した作品である。
 著者はラファエル・マリンとフアン・ミゲル・アギレラ。スペインSF界ではベストセラー作家の二人が手を組んでいる。
 ラファエル・マリンは一九八〇年のデビュー以来、冒険的要素の強い物語を書き続けるのと同時に、スーパーヒーロー・コミックスに造詣が深く、スペイン国内はもとより、イギリスのコミックにも脚本を提供している。
 フアン・ミゲル・アギレラは、ハビエル・レダルという作家と共同執筆することが多く、なかでも、一九八八年の「暗闇の世界」はジョン・クルートとピーター・ニコルズの「エンサイクロペディア・オブ・サイエンスフィクション」で「スペインが生んだスペースオペラの新しい形」と評されたが、ラファエル・マリンとの合作は今回が初めて。また、アギレラは多数のイラストを描いており、昨年公開されたスペインのSF映画「ストランデッド」では脚本家としてだけではなく、美術にも一役買っている。こういう二人の合作なので、物語はとても視覚的で、コミックか映画を見ているようだ。

 荒涼とした大地にたたずむ二つの存在。教師と生徒であり、恋人同士であるダガンとアクリスは今まさに太陽に呑み込まれようとしている地球の研究に来ていた。しかし、時空曲線の計算を誤って六五〇〇万年の過去に飛ばされ、アクリスは月へ、ダガンは地球に激突する。本来の時空ならば一瞬で再生できたのだが、ここは時間的に遠く離れてしまっているため、アクリスの連結体が元の姿に修復するまでには数百万年かかってしまった。ダガンは地球に激突したときの衝撃で大気に塵を巻き上げ、生態系に大きなダメージを与えた。地球はすでに回復したようだが、ダガンは正気を失ってしまったのか地表には何千もの連結体がうごめいているのが探知された。地球へ向かうアクリス。しかし、その途中で奇妙な連結体の攻撃を受けたアクリスは飛行能力を失い、地球へ落ちた。そのとき、青銅器文明にあった地球人は、その姿から、アクリスを女神として迎えた。
 エネルギーを十分に補給できない連結体は、生命を維持していくには食べるという行為をするようにアクリスに要請した。女神として迎えられたので、食べる物には困らなかったが、なぜ、こうすんなりと受け入れられたのか。連結体が彼らの言葉を翻訳できるようになると、謎が解けた。海の向こうの大都市「環状列島」に同じような神が幽閉されているというのだ。これがダガンかもしれない。
 環状列島への定期通商船が来るのを待って一つの季節を過ごしたアクリスは、彼女を最初に発見したデロスと共に、幽閉された神のもとに向かう。幽閉している迷路の前で、入口を警護する僧兵から戦斧で攻撃を受け、気を失ってしまう。この斧にはナノマシンが組み込まれていて、そのために連結体との連携が阻害されたのだ。この迷路に出入りする道をただ一人知るという僧侶ミノアルカに連れられて迷路の中心に入っていくアクリスとデロス。そこにいたのは、爬虫類と人間をかけあわせたような怪物だった。先程、自分が倒されたナノマシンのテクニックを応用してその怪物を倒すが、戦いに巻き込まれたミノアルカは負傷して死んでしまう。連結体の力を借りて蘇生したミノアルカから、北の「果て無き海」を越えたところに巨大な蛇がとぐろを巻いたような「生きている島」があり、無数の海蛇と頭が牛の形をした大男たちに護られていたが、命からがら逃げ出してきたという話を聞いた。ここにダガンがいると確信したアクリスは、連結体のデータベースを利用して、この世界では見たこともない巨大な船を建造して生きた島に向かう決心をする…。

 ここに、ギリシア神話のクレタ島のミノタウロスのモチーフを見出すことは容易だ。ミノアルカはミノス王であり、アクリスはテセウスとも読める。しかし、この作品のウェイトは北の果ての「生きている島」にいるダガンを見つけることにあり、環状列島の迷路は通過点に過ぎない。次の展開はギリシア神話とはまったく異なっているものの、語り口は神話的であり、SFの手法で神話の語りなおしを彼らなりに試みたともいえるだろう。
 過去の話を書きたいマリンと、未来の話を書きたいアギレラの連携は自然で、青銅器時代の地中海風舞台と、ナノテクや遺伝子操作などの超科学との絡まり具合もうまく処理されていて、肩の凝らないエンターテインメントになっている。

「時を越えた探索」 Contra el tiempo

ラファエル・マリン フアン・ミゲル・アギレラ 
Rafael Marín & Juan Miguel Aguilera

(Artifex, 2001)

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