今回は、キューバ出身の女性作家ダイナ・チャビアノを紹介します。一九七九年にキューバのダビデ文学賞に新設されたSF部門を「Los mundos que amo(わたしの愛する世界)」で一回目の受賞をするという快挙を成し遂げた後、八三年に短編集「Amoroso planeta(恋する惑星)」、八六年に中篇「Historia de hadas para adultos(大人のための妖精物語)」を書き、八八年はじめての長篇「Fábulas de una abuela extraterrestre (異星の老婆の物語)」を出版、その年のベストセラーとなる。この長篇は、ドイツ語にも翻訳され、九〇年にはドイツのアンナ・セガーズ賞を受賞した。そのほかに、八八年には二本の短編映画に、九〇年にはTV用ドラマ一本に女優として出演したり、脚本も多数執筆したが、このころのキューバは、ソ連が対キューバ支援を中止したことで紙の入手さえ困難になる危機を迎え、多数の作家が国外に出たが、チャビアノもその一人で、アメリカに移住することになる。

 ここで紹介するのは、二〇〇二年にメキシコで出版され、翌〇三年にメキシコの幻想文学賞ゴリアルドス賞を受賞した改訂版の方である。
 この長篇は三つの場面が平行して語られていく。
 ひとつは背中に翼を持ち、全身が羽で覆われ、目が三つある、精神感応ができるシフェという種族の話。彼らが住むのは、太陽が二つあるファイディールという惑星。シフェたちは四百年前からの因縁で、フメーノという翼がなく、目も二つしかない種族と争っていた。村の魔術師たちはその戦いに参戦できるものを毎年募っているが、この物語の主人公、イッヘも今年試験を受けなければならない年齢に達していた。そのイッヘが楽しみにしていたのは、祖母の話してくれるアルレーナという女性の物語だった。
 その語られる内容が、二つめの場面となる、惑星リディルのアルレーナの冒険である。宇宙船の事故で惑星リディルに不時着するが、ただ一人生き残ったアルレーナはリディルの民の有力者に取り入って、つかの間の平穏な日々を過ごすことができた。しかし、それを快く思わない側近の僧侶たちに宮殿を追放される羽目に陥ってしまった。
 それと同じ状況を小説にして書いていた、現代のキューバの首都ハバナの学生である、アナの視点で語られるのが第三の場面。最初は自分の創作だと思って書き続けていたが、アルレーナの顔が自分の顔になっている夢を見たり、創作の世界のものが現実に出現したりすると、友人たちの心配をよそに、どんどんその世界にのめり込んでいく。
 第一のファイディールの場面は詩情豊かな伝説風、第二のリディルでは中世の冒険小説風、第三の現代のハバナは現代小説風と三種三様のスタイルで書き進められていくが、この三つが次第に、時には時空間の科学的解説を交えながら溶け合っていく様は、まさに良質の科学ファンタジーといっていい。難を言えば、第二のアルレーナの話があまりにヒロイック・ファンタジー風で、せっかく宇宙船の唯一の生存者という設定なのだから、もう少しSFっぽくして欲しかったかなというところ。
 アメリカに移住してからは〈La Habana Oculta(隠れたるハバナ)〉というシリーズに入る3本の長篇、「El hombre, la hembra y el hambre(丈夫と情婦と少腹と)」(1998、スペインのアソリン賞受賞)、「Casa de juegos(ゲームの家)」(1999)、「Gata encerrada(閉じ込められた雌猫)」(2001)を発表。また、二〇〇一年は九八年にキューバでEdad de Oro(黄金時代)児童文学賞を受賞していながら、国外に移住したためキューバ政府から出版が禁止された「País de dragones(ドラゴンの国)」がスペインから出版され、やっと陽の目をみたという年でもあった。
 〈隠れたるハバナ〉シリーズはハバナの街角から魔術的な異世界へと迷い込んでいくという話なので、この「異星の老婆の物語」のテーマをもっと深く掘り下げたシリーズとなっていることだろう。
 現在、www.dainachaviano.comにて、経歴、雑誌等に掲載された紹介記事、写真などを、スペイン語と英語で紹介。画像も多いサイトなので、見るだけでも雰囲気が伝わってくる。トップページには、女優としても出演したというその艶姿が飾ってあるので、一度ご覧になってください。

「異星の老婆の物語」
Fábulas de una abuela extraterrestre
 (Oceano, 2002)

ダイナ・チャビアノ Daína Chaviano
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