いまやスペインSF界のベストセラー作家となったラファエル・マリンの第一長編である。スペインSFの「以前」と「以降」を作った古典的小説などといわれ、評価は高い。
 私が読んだのは八四年度版だが、〇二年に同じ宇宙史に属する短編「A tumba abierta(開いた墓に)」と「Ébano y Acero(黒檀と鋼鉄)」の二編を加えた形で新装版が出版された。この短編を読むためにその新版を取り寄せようと思ったが、調べてみると「開いた墓に」の初出は九一年のBEM15号で、「黒檀と鋼鉄」はVisiones九六年度版に収録されていた。たまたまどちらも持っていたので、取り寄せるのはやめた。
 時は、第三期中世。とはいってもはるかな未来で、人類はニューヨークに本部を置く「コーポレーション」が拡張の名のもとに宇宙を征服し、その版図を広げていた。若きハムレット・エバンズは地元で詩人の会に入って活動していたが、自分の星を出たくてたまらなかったので、コーポレーションに入り、従軍詩人になることにした。コーポレーションでは各戦艦に詩人を一名乗せており、征服を賛美する詩を書かせていたのだ。惑星「修道院」での三年間の修行ののち、戦艦に配属されて従軍生活が始まる。しかし、悲惨な戦況を目の当たりにしたハムレットは、コーポレーションの征服路線に疑問を抱くようになる。ある日、不意に襲撃され、ハムレットが従軍した部隊が全滅するが、奇跡的に原住民に助けられたハムレットは、この星で生きていくことを決意する。たまたま元劇団員だったという乞食に出会い、彼から演劇のことを学び、反戦劇をゲリラ的に上演するようになるが、かつての従軍時代の同僚が鎮圧にのり出してきて、逃亡生活が始まった。
 宇宙艦隊とか惑星間戦争とかの用語は出てくるが、どうも雰囲気は「中世」的。征服の仕方や、後半の被征服惑星の様子などを読んでいると、スペインの中南米征服あたりのことを彷彿とさせるものがある。宇宙に進出するだけのテクノロジーがあるなら、映像や感覚をデータで記録するという技術もあるだろうに、ニューヨークの本部に戦況報告するのにも、詩人が書いた詩を超高速通信で送るのだが、「名作」ができると、作者ともども有名になったりする。特に、軍を離れてからはロー・テクにどっぷりとつかる。

開いた墓に」は六人の脱走兵がある惑星に不時着するところから始まる。この脱走兵の中にはコーポレーションから送り込まれたアンドロイドがいて、致死性のウィルスをばらまく。ワクチンは宇宙船のカプセルの中。乗組員は脱出ポッドで着陸したので、船を捜さなければならない。そして、その錠を解除できるのは一名のみ。しかも、死体から切除された他の乗組員の指をパッドに当てなければならない。かくて、バトル・ロワイヤルが始まる。「光の涙」本編とはまったく違う過剰とも思えるえぐいホラーサスペンスが全編を貫いている。

黒檀と鋼鉄」はハムレットが修道院で恋に落ちたロスウィータが登場する。といっても、彼女が活躍する話ではなく、休暇で下りた惑星で出会った乞食の話。生まれ故郷の惑星を、密航して命がけで逃げ出したが、到着した惑星もひどいところだった。鉱夫の仕事にありついたが、過酷な労働条件で、ついにストライキを決行。しかし、コーポレーション軍につぶされ、乞食に身をやつすしか道はなかった。どことなくハムレットを思い出させるところがありながら、まったく違う境遇。彼は密航の途中で友をなくし、ストライキに巻き込まれて両脚をなくした。その彼にロスウィータを絡ませることで、対比を鮮明にしている。


「光の涙」
Lágrimas de Luz (Ediciones Fenix, 1984)
ラファエル・マリン Rafael Marín

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